お腹の中から始まっている!?妊娠期のビタミンA不足が胎児の認知機能に与える影響

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)説」というのをご存じでしょうか。これは1986年にイギリスのデヴィット・バーカー博士が提唱した説で、お母さんのお腹の中にいるときすでに、成人してから高血圧や心疾患などになりやすくなる「素因」が作られるというものです。この「DOHaD説」の検証は国内外で盛んに行われており、子どもの認知機能への影響も焦点になっています。今回は、妊娠期のビタミンA不足とお腹の赤ちゃんの認知機能について調べた論文を、ご紹介します。

ビタミンAと認知症の関係

飽食の時代にもかかわらず、日本では2500g以下の低体重で生まれる赤ちゃんが増加しており、これには若い女性の過度なダイエットの影響が少なくないと考えられています。妊娠前に痩せ過ぎていたり妊娠中に栄養不足だったりすると、お腹の子どもは低出生体重児になりやすいといわれます。その影響は大きく、低体重児は成人してから高血圧や心臓病、糖尿病などさまざまな病気を発症するリスクが高いことが、明らかになってきています。

重慶医科大学のZeng博士らは、ビタミンAと認知機能について研究を行い、2017年に発表しました。
博士らはまず、330人の高齢者の血液に含まれるビタミンAレベルを調べました。その結果、13%がビタミンA欠乏症であり、また約4分の1が「潜在性の」ビタミンA欠乏症でした。さらにアルツハイマー病、および認知症を調べるテストを行ったところ、ビタミンAが不足している人々ではそうでない人よりも、認知症と診断される人が有意に多いことがわかりました。

妊婦の栄養不足がまねく子どもの認知機能低下のリスク

次に博士らはマウスを使って、妊娠期のビタミンA不足が胎児に与える影響について調べました。ビタミンA欠乏症になるようにエサを与えたマウスから生まれた子マウスでは、「アミロイドβ」を作り出す酵素が増えていることがわかりました。アミロイドβはアルツハイマー病の脳に多く表れるタンパク質で、神経細胞の働きを妨げていると考えられます。

また、ビタミンA欠乏症マウスから生まれた子マウスは、普通のエサで育った母マウスから生まれた子マウスよりも、空間記憶に関する能力が劣っていることがわかりました。胎児期は普通にビタミンAを摂取し、生まれてからビタミンA不足のエサを与えられた子マウスでは、空間記憶に異常は見られませんでした。この結果より、お腹の中で得たビタミンAの量が、生まれてからの認知能力に影響しているものと考えられます。

ただし、ビタミンA欠乏症マウスから生まれた子マウスにビタミンAを与えると、アミロイドβが減少し、認知機能が改善される傾向がありました。このことから、栄養不足による認知機能低下を改善するには、早い時期に対処することが大事である、と論文ではふれています。

妊娠中のビタミンAは多過ぎても不足してもダメ

ビタミンA(レチノール)は卵黄や乳製品に多く含まれるとともに、緑黄色野菜に含まれるβ-カロチンからも作られます。体の発育や皮膚の形成、視覚機能などに関わっており、大人でも子どもでも欠かすことのできない栄養素です。しかし、ビタミンAからできる「レチノイン酸」という物質は、お腹の中で胎児が形作られる際に重要な役割を果たしており、過剰に摂取してしまうと奇形をまねく恐れがあります。そのため、今回ご紹介したように妊娠中のビタミンA不足はよくありませんが、必ず上限を守って摂取するようにしましょう。

今回ご紹介した論文
Marginal vitamin A deficiency facilitates Alzheimer’s pathogenesis.
Zeng J et al. Acta Neuropathol. 2017 Jan 27. doi: 10.1007/s00401-017-1669-y.
参考文献
栄養機能化学 第3版 朝倉書店
日本DOHaD学会 http://square.umin.ac.jp/Jp-DOHaD/