脳の働きに関わる「不飽和脂肪酸」

工樂真澄

fish-422543_1920 (1)

「もっと頭が良ければなあ」とは、誰でも一度くらいは思ったことがあるでしょう。一概に「頭の良さ」と言っても定義することは難しいですが、一般的な「知能」は遺伝によるところが大きいとされます。しかし、例え双子であっても、生まれてからの環境や本人の性格などによって、その後の知能のレベルは大きく違ってくると言われます。今回は「栄養」と「頭の良さ」の関係を調べた論文をご紹介します。

脂肪酸と脳の関係とは

アメリカのイリノイ大学のZamroziewicz博士らは、「脂肪酸」と「頭の良さ」にどのような関係があるかを調べ、2017年に発表しました。五大栄養素の一つである「脂質」は、エネルギー源であるとともに、細胞を包む膜を形成するための重要な要素です。脂質は主に脂肪酸からなります。脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に大別することができます。飽和脂肪酸とは、その構造に二重結合を含まないもので、ラードや牛脂、ヤシ油などに多く含まれます。また、不飽和脂肪酸にはオレイン酸やリノール酸、リノレイン酸などがあり、植物油に多く含まれます。青魚に多く含まれるDHAやEPAも不飽和脂肪酸です。

博士らは健康な高齢者99人(平均年齢69歳)に協力してもらい、血液サンプルから脂肪酸を抽出し、組成の比較を行いました。また、「一般的な知能レベル」を調べるために様々な知能テストを行ってもらいました。さらに、機能的MRIによってテスト中の「脳のネットワーク」の働きを調べました。

例えば、私たちが目の前にある物を「これはリンゴではなくボールだ」と判断できるのは、脳の働きによるものです。目から受けとった光刺激は電気信号として神経細胞を伝わり、脳に伝えられます。色や形などの情報はさらに別々の神経細胞によって解析され、過去の記憶と照らし合わせて、その物が何であるかを判断します。この一連の働きに関わる神経細胞が作る回路を「視覚ネットワーク」と呼びます。今回の研究では、脳の7つのネットワークについて調べました。

解析の結果、「背側注意ネットワーク」と「前頭頭頂制御ネットワーク」と呼ばれる回路が、「一般的な知能レベル」と大きく関係していることがわかりました。「前頭頭頂制御ネットワーク」は、目的をもって何かを感じ取るなど、全般的な注意の制御を行う回路です。ただし、年齢とともに衰えるとも言われています。これに対し、「背側注意ネットワーク」は目的をもって行う「空間知覚」に関わるとされる回路です。高齢者では「前頭頭頂制御ネットワーク」の衰えを、「背側注意ネットワーク」が発達することで知能を補っているのではないかと、論文では推測しています。

さらに、脂肪酸の種類とネットワークの働きとの関係を調べたところ、「不飽和脂肪酸」が「背側注意ネットワーク」の働きと強く相関していることがわかりました。これは前頭頭頂制御ネットワークでは見られませんでした。

以上の結果から、高齢者の「一般的な知能レベル」には「背側注意ネットワーク」と「前頭頭頂制御ネットワーク」が大きく関わっており、さらに、「不飽和脂肪酸」を摂取した割合が高いほど、背側注意ネットワークが活発に働く傾向があることが示唆されました。この傾向は飽和脂肪酸など、他の脂肪酸では見られませんでした。

基本はバランスのとれた食生活

今回の論文では、脂肪酸の中でも「不飽和脂肪酸」が、高齢者の知能レベルと関わることが示されました。しかし、いくら頭の良さと関係がありそうだからと言って、不飽和脂肪酸だけを食べていればいいわけではありません。厚生労働省が示す国民栄養摂取基準では、飽和脂肪酸を1日の総エネルギーの7%以下、脂質全体では20%から30%におさめるよう推奨しています。最終的にはバランスのよい食事をとることが、体全体だけでなく脳の健康にとっても大切なことなのです。

ご紹介した論文
Nutritional status, brain network organization, and general intelligence.
Zamroziewicz MK et al. Neuroimage. 2017 Aug 15;161:241-250.