寄生性が脳を進化させた?

佐藤洋平

寄生(イメージ)
出典元:pixabay.com

人の脳は社会でうまく生き抜いていくために発達したとする「社会脳仮説」が近年よくとりあげられます。昆虫の場合は社会性というより寄生性が脳を発達させてきたとする論文を紹介します。

寄生と脳の関係

パラサイトという言葉をよく聞くようになったのはここ10数年だと思うのですが、パラサイトは日本語の「寄生」であって、特定の宿主に一方的に依存して生きていくスタイルを指します。

親子の関係を除けば赤の他人に寄生して生きていくためにはそれなりの手腕・頭脳も必要になるわけで、それはある種のセンス、才能がなければいけない何かのような気もします。この寄生能力と脳はどのような関係になっているのでしょうか?

今日取り上げる論文は、虫の社会性と脳の関係について調べたものです。

社会脳仮説

近年脳科学の分野で取り上げられているテーマとして「社会脳仮説」があります。

これは、「ヒトの脳が発達した理由は社会の中でうまく頭を使って生き抜いていくため」という仮説なのですが、この仮説を裏付けるように哺乳類の脳を比べてみると社会性が高くなるにつれ、脳も大きくなるという関係があるようです。

その傾向は昆虫にも見られるようで、特にアリやミツバチといった社会性が高いものではやはり昆虫の高次脳に当たる場所が大きくなるそうです。

昆虫の高次脳を発達させた寄生性

この論文ではハチ目の様々な昆虫を対象に高次脳と昆虫の性質、進化の分岐を比較検討しているのですが、昆虫の高次脳を発達拡大させたのは社会性ではなく寄生性であり、寄生の対象になる宿主を見つけて・追いかけて・関係をもつという課題が昆虫の高次脳を発達拡大させたのではないかということが述べられています。

無論昆虫の脳とヒトの脳を比較できるわけもありませんが、何かに寄生するという行為も課題的には相当難しく、それなりの社会脳が必要になるのかなと思いました。

【論文要旨】
社会脳仮説においては脊柱動物において社会的な行動を取る必要性が脳を進化拡大させたことを指摘している。昆虫においてはキノコ体が高次の神経中枢に当たるが、社会性を持つアリやミツバチ、スズメバチなど社会性の高い昆虫において大きいことから、この社会性仮説は非脊柱動物においても当てはまるものと考えることができる。今回ハチ目において質的,量的にキノコ体の種間の相位について検討した。結果、ハチ目においてはキノコ体の進化は社会性ではなく寄生性によって促されたことが考えられた。

(出典)
Proc Biol Sci. 2011 Mar 22; 278(1707): 940–951.
Published online 2010 Nov 10. doi: 10.1098/rspb.2010.2161
PMCID: PMC3049053
Parasitoidism, not sociality, is associated with the evolution of elaborate mushroom bodies in the brains of hymenopteran insects
Sarah M. Farris1,* and Susanne Schulmeister2

「脳科学 リハビリテーション」より