覚え方を工夫すれば、年をとっても記憶を効率よく取り出せる!

工樂真澄

取り出しやすいように工夫する(イメージ)
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よく「記憶力がいい」とか「記憶力がおちた」などといいますが、「記憶力」とは簡単にいえば「思い出す」ことではないでしょうか。今回は、「思い出す」という脳の働きが年齢によってどのように変化するかを、みていきましょう。

思い出すとはどういう過程なのか

電車やバスなどでこんな経験はありませんか?「前の席にいる人、以前どこかで会ったことがあるような気がするけど、誰だったかなあ。」

「思い出す」とは、難しい言い方をすれば、脳の中に収納されている情報を適切に「取り出す」プロセスです。もしこのプロセスが破たんしてしまったら、危険な物や場所さえ思い出すことが出来ないのですから、毎日心穏やかに暮らせそうにありません。

「記憶を取り出す」過程には2種類にあると言われ、一つは「リコレクション(Recollection:回想とも)」、もう一つは「ファミリアリティー(Familiarity:熟知性とも)」とよばれます。

先ほどの例のように、時間や場所などの詳細な情報は取り出せないけれど、たしかに「その人に以前会ったことがある」というのが「ファミリアリティー」です。

これに対し、ふとその人の制服姿が思い浮かび、「そうだ!急に歯が痛くなって、しかたなく飛び込んだ歯医者の受付にいた人だ」というように、いつ、どこで、どんな経験をしたかという詳細な情報を取り出す過程が「リコレクション」です。

「ファミリアリティー」はあまり変化しないものの、年を重ねるほど「リコレクション」は難しくなると言われています。

年をとってもファミリアリティーは影響を受けにくい

中国科学院のチャン博士らは、健常な高齢者(平均年齢約69歳)と若者(平均約21歳)で「記憶の取り出し方」を比較し、2015年に発表しました。

「連想記憶タスク」という実験があります。最初のタスクでは、何秒かごとに画面に表れる二つの単語の組み合わせを、なるべく多く記憶します。続く「テストモード」でも、やはり画面に単語のペアが表れるので、最初のタスクで見たときと同じ組み合わせか、または組替わっているのかを判断します。最初のペアを「思い出す」過程こそが、まさに「リコレクション」です。

博士らはこのタスクで使う単語ペアが、連想されやすい組み合わせではどうなるかを調べました。たとえば「りんご、えんぴつ」よりも、「ギリシャ、神話」のように関連性のある単語ペアのほうが思い出しやすいのでは、と考えたのです。

実験の結果、若者は関連のある組み合わせであってもなくても、ほぼ同じくらいの正確さで回答しました。これに対し高齢者では、「関連のある単語の組み合わせ」のほうが、そうでないものより成績が良かったのです。これはなにを意味するのでしょう。

リコレクションとファミリアリティーには、異なる脳の領域が関わる

実験中は脳波が測定され、どの単語ペアの時に、脳のどの部位が活性化するかが調べられました。

リコレクションとファミリアリティーに関わる脳の領域は、それぞれ異なるといわれています。例えば脳の左半球の背外側前頭前野はリコレクション、これに対して右側はファミリアリティーに関わるとされます。脳波測定の結果から、高齢者では「関連のある単語」を思い出しているとき、脳の右半球が活発に働いていることがわかりました。

一般に「記憶の取り出し」には「リコレクション」が重要で、「ファミリアリティー」はあまり貢献しないと言われていました。しかし高齢者ではリコレクションの能力は衰えていきます。その代わりに「連想しやすい」「身近な」単語の組み合わせのほうが「ファミリアリティー」の過程を刺激して、より記憶から「取り出し」やすくなるのだと考えられます。

記憶を取り出しやすくするには

この研究から、年をとるほど物事は関連づけて覚えるほうが、「思い出し」やすくなることがわかります。

たとえば買い物リストを、そのままバラバラに覚えるのはたいへんです。でも例えば「牛肉」と「牛乳」なら、「どちらも牛の産物」と記憶したりすると、忘れにくくなりますよね。この頃物忘れがひどいという方は、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

Electrophysiological evidence for the effects of unitization on associative recognition memory in older adults.
Zheng Z et al. Neurobiol Learn Mem. 2015 May;121:59-71.