今年2月に放映された(9月に再放送)NHKサイエンスZERO ”記憶”のミステリー~最新脳科学が解き明かす記憶の正体~ご覧になられた方もいらっしゃると思いますが、記憶のメカニズムがかなり明らかになってきました。運動や睡眠が記憶にも重要な役割を果たしているようです。
記憶の固定化作業
理科学研究所脳科学総合研究センターで記憶研究のチームリーダーを務めるトーマス・マックヒュー博士は、海馬の神経細胞の活動を音にしてリアルタイムで分析する方法を開発しました。一つ一つの神経細胞が活動する様子がわかるようになり、記憶研究が加速しているそうです。
トーマス・マックヒュー博士が行ったマウスの迷路実験では、マウスが休んでいる間に脳の海馬の「場所細胞」が今まで来た道を何度もリプレイして記憶の固定作業を行っていることがわかりました。
※場所細胞とは、記憶に重要な空間位置情報を認識する神経細胞のこと
また海馬には「時間細胞」という時間の経過を認識する細胞があることもわかってきました。場所細胞と連携しながら記憶を保持しているそうです。
神経新生と睡眠・運動
1953年、てんかんの治療のため海馬を切除した患者(ヘンリーモレゾンさん)が、数分前の出来事を思い出せなくなっている一方で、自分の生い立ちや家族の記憶は残っていたことから、海馬は新しい記憶の貯蔵場所であり、何度も繰り返し覚えられる重要な記憶は大脳皮質に転送されて残ることが明らかになりました。
そして新たに富山大学大学院井ノ口馨教授によって海馬と大脳皮質間の転送システムの詳細が発見されました。
井ノ口馨教授によると「神経新生」、つまり海馬に新しい神経細胞が生まれることにより海馬から記憶が消え、その記憶が大脳皮質に転送されるとのことです。
また、睡眠時に海馬から大脳皮質に多くの記憶が転送されていることもわかりました。人は寝ている間に海馬で起きたことを復習して大脳皮質に転送、記憶を固定化しているのです。
睡眠には脳内に蓄積したアルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドベータを排出する機能がありますが、記憶を海馬から大脳皮質に転送し記憶を固定化する役割も担っているわけです。
そして若い時は神経新生が盛んで、新しいことを記憶してもどんどん大脳皮質に転送して海馬の容量を空けておくことが出来ますが、加齢により神経新生が活発に行われなくなると海馬の容量がすぐに一杯になってしまうため記憶力が衰えていくそうです。
しかし運動により神経新生は2倍にもなるといいます。運動習慣が認知機能・記憶力維持に好影響を与えるメカニズムがここでも確認できます。
記憶力を高めるには
海馬が大脳皮質に記憶を転送するには、何度も繰り返し記憶する必要があるようです。これは地道に繰り返すしかありませんね。
そして十分な睡眠をとる。睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠があり、ノンレム睡眠には第一段階から第四段階までありますが記憶の固定化には第二段階が重要であることが最近の研究でわかってきました。(睡眠中に脳に電気刺激を与えて記憶を強化できる技術)
さらに適度な運動習慣ですね。神経新生を増やして海馬の容量を増やしましょう。
「復習(繰り返し覚える)」「睡眠」「運動」が記憶力UPのキーファクターのようです。
参考:NHKサイエンスZERO ”記憶”のミステリー~最新脳科学が解き明かす記憶の正体~