年をとるほどネガティブな感情が減るってホント!?

工樂真澄

年をとると寛容になる(イメージ)
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昔よく聴いたメロディーを耳にすると、その頃の思い出や感情が鮮明によみがえってくるから不思議です。でも、遠い昔に抱いた感情とはなんだか違うような。今回は年齢とともに変化する「感情」についての研究をご紹介します。

年齢によって異なる感情が湧く

同じメロディーを聞いても年齢によってその受け取り方に差があることを2013年に発表したのは、フランスのフランシュ・コンテ大学のビエイヤード博士とナント・アンジェルマン大学のジレ博士です。

博士らは19歳から24歳の若者と、60歳から84歳の高齢者のグループを対象に、音楽から受ける「感情」についての調査を行いました。被験者は40の短いメロディーを聞いて、それぞれのメロディーの印象を10段階で答えます。各メロディーについて、「楽しい(happy)、穏やか(peaceful)、悲しい(sad)、怖い(scary)」のそれぞれの感情を、どの程度感じられるか答えてもらいました。

その結果、同じメロディーを聞いても、高齢者のグループは若者よりも「楽しい」、または「穏やか」と感じることが多く、「悲しい」や「怖い」と感じる割合がずっと少ないことがわかりました。

年をとるとネガティブな感情が薄れるのはなぜ?

年をとると「悲しみ」や「恐怖」などの「ネガティブな感情」を抱きにくくなる、と言われます。これはどうしてなのでしょう。

一説には年をとることで、脳の「扁桃体」が縮むためではないかと言われています。恐れや悲しみ、怒りなどの身体的、感情的な反応には大脳辺縁系の「扁桃体」よばれる部分が関わっています。扁桃体はアーモンドのような形をしていることから、このような呼び名を持ち、記憶をつかさどる「海馬」の先端に左右一つずつあります。

大脳辺縁系は「古い脳」ともいわれ、爬虫類や鳥類など下等な生物にも存在します。古い脳は「生物の基本的な活動」に関わるところです。生物にとって究極の目的は「生命を守る」です。そのためには生命を脅かす事柄には敏感でなくてはなりません。「扁桃体」は外からの刺激によって伝わってきた感覚情報を判断して、「恐怖」や「怒り」、または「快楽」といった感情を引き起こします。その結果として、逃げたり、または攻撃したりという行動を起こすことができるわけです。

扁桃体は海馬とつながっており、そのため感情を呼び起こすような出来事ほど記憶されやすくなります。特に不快に感じたことや恐ろしい経験は記憶されやすく、次に同じような状況にあいそうなときには、その刺激を避けるように行動することができるわけです。

扁桃体を損傷した患者さんはこのような回避行動ができなくなります。高齢になると扁桃体が縮むために、これに似たような状況になるのでは、と考えられるわけです。

しかし年をとってネガティブな感情が少なくなるのも、ある意味「防御反応」といえるかもしれません。若い頃に比べれば、年を経て体力や容姿、認知能力が衰えてくることは、誰しも否定できません。人生も終盤が近くなり、希望や夢に満ちあふれた頃に比べれば、現実逃避したくなることもあるでしょう。しかしそこで悲観的になっては生きる気力を失ってしまいます。少しだけ「ネガティブセンサー」の感度を落とすことで、相対的に「楽しく」感じる場面が増えるのだとしたら。。。

長寿命になった人間にとって、年齢による感情の変化は、とても重要なことなのかもしれません。

若い頃の感情を呼び覚ましてみよう

喜怒哀楽は生きる上で欠かせない「本能」です。年をとるほどに「楽しい」と思うことが増えるというのは、実は幸せなことではないでしょうか。この夏、暇を見つけて、若い頃に夢中だった音楽を聴いてみてはいかがでしょうか。あの頃とはまた違った感情が湧きあがってくることに、驚かれるかもしれませんよ。

Age-related differences in affective responses to and memory for emotions conveyed by music: a cross-sectional study.
Vieillard S and Gilet AL. Front Psychol. 2013 Oct 16;4:711.