よく「我々人間は30%の力しか使えない」と言いますが、なぜ100%の力を使えないのでしょうか?脳と体の関係からその理由を解説した論文をご紹介します。
なぜいつも「火事場の馬鹿力」がだせない?
火事場の馬鹿力とはいいますが、ヒトが全力を発揮できる状況はごくごく限られます。
中国に古来伝わる一子相伝の拳法でもマスターしないかぎり?、ヒトはその力のリミッターを外すことができないと思いますがこれはどういうわけでしょうか?
今回取り上げる論文はなぜヒトをはじめとする動物に力のリミッターがついているかについて様々な研究を元に解説したものです。
脳を守るために肉体活動に制限?
なぜ力を出し切れないかという理由は数多くあるのですが、その一つに脳の生理学的特徴が関係しているようです。
脳は大きさでは両手の拳をあわせたくらいのもので、重さは体重の約2%に過ぎないのですが、そのエネルギー消費量は全消費エネルギーの約20%になるそうです。
しかもこの脳というのはエネルギー不足に非常に弱く、ほんの数分間酸素によるエネルギー供給が止められただけで多くの組織が不可逆的に損傷してしまうという特徴があります。
そのためヒトの生体は、この脳を守るため、脳に十分なエネルギーを与えるために、肉体の活動に制限をかけているそうです。
生体メカニズムが肉体の活動に制限をかけてまで守ろうとする脳。我々は体だけでなく脳の健康ももっと意識すべきかもしれません。
【論文要旨】
動物の形態や生理、行動は個体が生き残るための進化の選択圧によって形作られている。
幾つかの選択圧が利益を増やす方向に個体を変化させ、また別の選択圧が生きるコストを切り下げるために個体を変化させ、利益/コスト比が進化の方向に影響を与える。
神経系は形態や生理、行動の接点にあたる独特のポジションにある。
神経系は環境に適応した行動ができるよう進化したが、それが過度に生存コストを引き上げないよう調整されてきた。
http://jeb.biologists.org/content/211/11/1792
J Exp Biol. 2008 Jun;211(Pt 11):1792-804. doi: 10.1242/jeb.017574.
Energy limitation as a selective pressure on the evolution of sensory systems.
Niven JE1, Laughlin SB.
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出典:脳科学リハビリテーション