脳に電気を通すと記憶力が上がる? 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)とは?

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

「脳に電気を流す」などというと、SF映画にでも出てくるような、不気味な場面を想像されるかもしれません。今回ご紹介する「経頭蓋(けいとうがい)直流電気刺激法(tDCS)」は、まさに「脳に電気を流す」治療法の一つで、主にうつ症状の治療や、運動機能のリハビリテーションに使われています。現在では、認知症治療へ向けた応用だけでなく、記憶力向上のツールとしてもtDCSの研究が進められています。

頭皮の上から電気を流す

経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)は、頭皮の上に電極を貼りつけ、極めて微弱(1mAから2mA程度)な直流電流を通して脳を刺激する方法です。この方法は大がかりな手術の必要がなく、患者さんへの負担が少ないことが特徴です。

大うつ病性障害、いわゆる「うつ病」の原因としては、従来指摘されていたような神経伝達物質の濃度調節の異常だけでなく、近年、神経ネットワークの形成異常が挙げられています。うつ病の患者さんの中には、薬物療法や精神療法では効果を示さない方も多く、tDCSを含め新たな治療法が期待されています。

2016年にドイツ、ベルリンのカリテ大学のプレーン博士らは、tDCSの記憶力への効果について、論文を出しています。tDCSは頭皮の上から微弱電流を流すというシンプルな方法ですが、脳の比較的浅い部分にしか到達できないという難点が挙げられており、また効果も限定されています。そこで博士らのグループでは、神経伝達物質「セロトニン」に着目しました。セロトニンは気分や心の安定、さらに複雑な認知機能の調節などに深く関わっています。

実験では、セロトニンの濃度を調節する薬とtDCSを組み合わせて、高齢者と若者の両方で、どれくらい記憶力の増強に効果があるかを調べました。

実験の結果、tDCSを行った直後では、あらかじめセロトニン濃度を調節する薬を服用していたグループのほうが、若者でも高齢者でも記憶力が増強されることが明らかになりました。しかし、電流を流した翌日や一週間後に行った記憶力テストでは、その効果はほとんど見られませんでした。これらの結果から、tDCSはセロトニンによって短期記憶の増強を促す効果はあるようですが、増強された記憶力は一過性で、長続きしないことがわかりました。

tDCSはどうして脳に効くの?

2016年、理化学研究所脳科学総合研究センターの平瀬肇チームリーダーらがマウスを使った実験で明らかにしたtDCSの作用機序については、nounowでもご紹介しました。
https://www.nounow.jp/science/2012/

tCDSを行うと「アストロサイト」とよばれる細胞で、カルシウムイオン濃度が上昇し、その結果として、ニューロン同士の情報伝達が増強され、脳の活性化につながるというわけです。

理研チームの業績により、tDCSの仕組みだけでなく、記憶が増強される脳の仕組みが明らかになりました。

tDCSについては効果的な使い方や治療への応用など、まだまだ多くの研究課題がありますが、そのメカニズムは徐々に明らかになりつつあり、今後はうつ病や認知症治療だけでなく、多方面での応用が期待されます。

Effects of Anodal Transcranial Direct Current Stimulation and Serotonergic Enhancement on Memory Performance in Young and Older Adults
Prehn K et al., Neuropsychopharmacology. 2016 Sep 21.
Calcium imaging reveals glial involvement in transcranial direct current stimulation-induced plasticity in mouse brain.
Monai H et al. Nat Commun. 2016 Mar 22;7