記憶術訓練による脳のネットワークの変化

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

誰でも一度は「もっと記憶力がよければなあ」、と嘆いたことがあるのではないでしょうか。今回は「記憶術」と脳のネットワーク変化についての研究をご紹介します。

世界記憶力選手権って何?

2017年、ドイツのマックス-プランク研究所のDresler博士らのグループは、記憶術訓練によって、脳のネットワークが変化することを国際的学術雑誌『Neuron』に発表しました。記憶力の低下に悩む人がいるかたわらで、世界中には類いまれな記憶力を誇る人たちがいます。これらの人たちが出場するのが「世界記憶力選手権(World Memory Championships)」で、競技会では何十もの単語や数字などを短時間で覚えて、その記憶力を競います。

研究に協力してくれたのは23人の「記憶術の達人」たちで、いずれも世界ランキングのトップ50以内に入る方々です(平均年齢28歳)。対照となるのは、今まで特に記憶の訓練を行ったことがない一般人51人です(平均年齢24歳)。記憶術の達人の実力がどのくらいのものかというと、20分で72単語を記憶するテストでは、一般人が覚えた単語数が平均40だったのに対して、彼らはほぼ全部を記憶したそうです。

最初に記憶力を測定した後、一般の方々には6週間の記憶術訓練を行ってもらいました。記憶術の訓練には様々な方法がありますが、今回行ったのは「場所法」という方法です。この方法は「場所」に関連付けて、覚えたい単語などを記憶する方法です。たとえば家から会社や学校までの道順をたどりながら、家の前には「花」が咲いている、角を曲がると「犬」が吠えていて、通りに出ると「自転車」が停めてある、といった具合です。このように頭の中で道順をたどりながら、関連付けた単語を記憶していきます。

6週間の訓練後には一般の人の記憶力は著しく向上し、たとえば上記の単語テストで、訓練前に26単語しか暗記できなかった人が、訓練後には62単語まで思い出すことが出来ました。

記憶術訓練で脳に変化が現れる

博士らは、訓練前後の人々の記憶テスト中の脳を「機能的磁気共鳴装置(fMRI)」で観察し、記憶術の達人の脳と比較しました。訓練後の人の画像を解析したところ、脳の各領域間の繋がり方が、達人の脳によく似ていることがわかりました。このような特徴は訓練期間前には観察されませんでした。以上の結果より、記憶術の訓練を行うことで特徴的な脳のネットワークが作られ、これにともない記憶力が向上することがわかりました。

さまざまな記憶術訓練法

今回ご紹介した論文では「場所法」が用いられましたが、その他にも記憶術訓練法には「置換法」や「物語法」、「頭文字法」といったものがあるそうです。いずれも覚えたい事柄を何かに関連付けて記憶するという方法です。これらは日常の中でも簡単に取り入れることができます。たとえば「卵と牛乳、鶏肉、キャベツ」を買ってこなければならないとしたら、「キャベツ畑に迷い込んだニワトリが卵を産んだ途端、空からミルクが降ってきた」というふうに物語にしてしまうのです。こういった毎日のちょっとした取り組みによって、脳を鍛えことはできるのです。

ご紹介した論文
Mnemonic Training Reshapes Brain Networks to Support Superior Memory.
Dresler M et al. Neuron. 2017 Mar 8;93(5):1227-1235.

参照サイトhttp://kioku.ainest.com/tips/4968/