楽器やスポーツなどのスキルアップに効果的な方法

工樂真澄

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楽器やスポーツなどが上達するよう、日々がんばっておられる方は多いと思います。今回ご紹介する論文では、このようなスキルをより速く効果的に向上する方法について、報告しています。

効果的に体に覚えさせる方法の研究

2017年、アメリカのジョン・ホプキンス大学医学研究科のWymbs博士らは、楽器やスポーツなどに必要な技術を、より速くより効果的に取得する方法について調べ、発表しました。
例えばピアノやバイオリンなど、上手に弾けるようになるには繰り返し練習する必要があることは皆さんもよくご存じでしょう。博士らが論文で示したのは、ただひたすら同じことを繰り返すよりも、少し内容を変えた練習を行うほうが効果的だということです。

実験に参加したのは健康な86人(平均年齢26歳)です。被験者にはコンピューターを使ったある操作の訓練をしてもらいます。被験者はマウスではなく、手に付けた操縦器具を使って画面のカーソルを操作します。器具を利き手の親指と人差し指で挟むと、画面のカーソルが右に動きます。離すとカーソルは左に動きます。カーソルの移動距離は操作器具を挟む力で変化します。この操作でカーソルを、画面上の指定された通りの場所に順番に動かす訓練を行いました。

第一のセッションを45分間行った後、被験者はいくつかのグループに分けられました。6時間後の第2セッションでは、あるグループには最初に行った操作とまったく同じことを繰り返してもらいました。別のグループには、少し内容を変えた操作を行ってもらいました。このグループでは器具を挟んだ時にカーソルが動く距離が、最初のセッションから少し変化しています。ただし、変化したことは被験者には知らされていません。また対照グループでは二度目のセッションは行いませんでした。

少し変化を加えたほうがスキルアップには効果的

第2セッションから18時間後の第3セッションで操作を行ってもらい、どれだけカーソルを正確に速く動かせるようになったかを判定します。最も成績が悪かったのは、反復練習を行わなかった対照群でした。興味深いことに最も成績が良かったのは、同じ練習を繰り返し行ったグループではなく、少しカーソルの反応を変化させて練習を行ったグループでした。

この実験の結果より、楽器やスポーツなどのスキル上達には、ただ同じことを繰り返し行うよりも、少し変化を加えるほうが効果的である可能性が示されました。これは記憶の「Reconsolidation」とよばれる過程で、一度得た記憶を後に呼びさますことで記憶が強固になることと関係していると考えられます。今回の研究からReconsolidationでは、同じことを繰り返すよりも少し異なることを行うほうが、呼び覚まされた記憶が強固になり、スキルの向上につながる可能性が示されました。

意識して変えた練習でも効果があるのか

博士らは他にもいろいろな組み合わせを行い、効果的なスキル上達の方法を探っています。たとえば2回目のセッションを最初の練習から30分後に行った場合はほとんど効果がなく、反復練習を行わなかったグループと同程度の成績しか得られないことがわかりました。このことより、スキルの向上には反復練習は必要ではあるものの、あまり短時間のうちに行うより、少し時間をあけて行う方が効果的であることがわかりました。

今回の実験は、訓練内容が少し変化していることを被験者には知らされていません。今後、この研究を応用してスキルアップを目指すには、変更したことを自分で意識して行っても効果があるのかについて、検討する必要があるでしょう。

ご紹介した論文
Motor Skills Are Strengthened through Reconsolidation.
Wymbs NF et al. Curr Biol. 2016 Feb 8;26(3):338-43.