高齢者では大脳の広範囲で連携が強くなる

工樂真澄

wiring-diagram-8141_1920

大脳はいくつかの領域にわけることができ、それぞれの領域は異なる機能に関わっていることがわかっています。昨今では、一つの領域が一つの機能を担うというより、多くの領域が協調して形成された「ネットワーク」によって、一つの機能を果たしていると考えられています。今回は、大脳のネットワーク同士の「繋がり」について調べた論文をご紹介します

頭皮上から刺激を与えてネットワークの働きを観察

アメリカ、デューク大学のDavis博士らは、高齢になるほど、大脳のネットワークの連携が強くなることを調べた論文を、2017年に発表しました。年齢とともに脳の「働き方」には変化が現れます。高齢者は若い人に比べて、記憶や集中などを行う際に、大脳の広い範囲が活発になることが知られています。博士らは、15人の高齢者(平均年齢67歳)に協力してもらい、「経頭蓋磁気刺激法」という方法で、頭皮の上から磁気刺激を与えました。この方法では、5ヘルツ以上の高周波刺激を与えると脳の血流が増し、ワーキングメモリーやエピソード記憶などが向上するそうです。これに対し、1ヘルツほどの低周波刺激を与えた場合には、刺激を与えた箇所の活動が抑えられ、その領域が担う機能が抑制されると報告されています。

高齢者では、一つ一つの「ネットワーク」の働きが衰える一方で、複数の「ネットワーク」同士の連携が増すと考えられています。これは、年を取るほど外からの刺激に対する反応が弱くなる代わりに、脳の指令中枢の重要度が増すためとも考えられます。博士らは、経頭蓋磁気刺激がネットワークに与える変化を「機能的核磁気共鳴法(fMRI)」で調べました。解析の結果、5ヘルツの刺激を与えた場合には、刺激を与えた領域のみ神経細胞の活動が活発になりました。これに対し、1ヘルツの低周波を与えた場合には、刺激を与えた領域のみ、局地的に活動が抑制されました。またこれと同時に、広い範囲での「ネットワーク」同士のつながりが強くなりました。

さらに、「拡散テンソル画像法」を使って、刺激がどのような「構造的」変化を起こすかを調べました。「拡散テンソル画像法」は、神経細胞の枝の向く方向や状態によって、水が拡散する程度が変化することを利用しています。解析の結果、1ヘルツの低周波刺激を与えた場合、ネットワーク同士での機能的連携が増すに従って、構造的な繋がりが増していることがわかりました。これは5ヘルツの刺激では見られませんでした。
以上の結果から、高齢者では部分的に抑制された機能を補うために、大脳の広い範囲の繋がりをよくすることで、低下した機能を補う働きをしている可能性が示されました。

衰える認知機能をネットワーク間の連携でカバー

この研究から、高齢者では局地的に抑えられた機能を、広範囲のネットワーク間の繋がりをよくすることで補っている可能性が示されました。年をとるにつれて認知機能は衰えますが、長年培われた多くの情報や経験によって、脳の指令中枢が広範囲のネットワークを活発にして、機能を保とうとしているのかもしれません。高齢になっても脳の「可塑性」があることを示した興味深い研究です。

ご紹介した論文
Frequency-specific neuromodulation of local and distant connectivity in aging and episodic memory function.
Davis SW et al. Hum Brain Mapp. 2017 Sep 8. doi: 10.1002/hbm.23803.