恐怖記憶を消去するニューロフィードバック技術

nounow編集部

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出典元:pixabay.com

国際電気通信基礎技術研究所などのグループが、恐怖の記憶を打ち消すニューロフィードバック技術を開発しました。他の様々な記憶に関する技術とともに、トラウマに苦しむ人の治療につながる期待がもたれます。

恐怖記憶を打ち消す技術

国際電気通信基礎技術研究所などのグループが、恐怖の記憶を打ち消す脳科学の技術を開発したと発表しました。

研究では、20代の男女9人に、赤い図形を見たとき安全上問題のない範囲で電気ショックを受ける「恐怖の経験」をしてもらい、MRIを使って脳のどの領域が活動したかを調べました。

そして被験者の視覚野に恐怖記憶の対象を表す空間的脳活動パターンを検出する毎に、機械学習アルゴリズムを用いて被験者に報酬を与える訓練(Decoded Neurofeedback, DecNef法)を行ったところ、恐怖記憶の対象への恐怖反応を緩和することができました。

実験では、9人にMRIの装置で横になったままさまざまな考え事をしてもらい、無意識のうちに赤い図形の記憶が脳の中に現れたときに報酬を与える実験を3日間繰り返しました。その結果、9人とも赤い図形を見て恐れる反応を和らげることに成功したということです。

従来、恐怖記憶を和らげるには、恐怖の対象を繰り返し見せたり、あるいはイメージさせる手法が最も効果的と考えられていましたが、そうした手法自体がストレスになる場合があります。

従来の方法では、恐怖記憶を抑制するメカニズムが働くのに対し、DecNefを用いた場合は、恐怖記憶を単に抑制するのではなく、変容できる可能性があることがわかりました。

グループでは、将来的には過去の経験から反射的に恐怖を感じる症状を和らげる治療法の開発にもつなげられるよう研究を深めていきたいとしています。

尚、本成果は恐怖記憶研究分野の権威であるDaniela Schiller教授による解説記事と共に、Nature Human Behaviour誌創刊号に注目トピックとして掲載されるとのことです。

出典:国際電気通信基礎技術研究所プレスリリース「つらい経験を思いだすことなく、無意識のうちに恐怖記憶を消去できるニューロフィードバック技術を開発」 

光遺伝学で記憶を操作する技術

以前nounowで、記憶を光遺伝学(オプトジェネテイクス)の手法により操作する技術について取り上げました。(記憶を操作する技術

マウスレベルですが、ストーニーブルック大学の研究では光遺伝学を利用して、コリン作動性ニューロンに光を当てて刺激し、記憶を強化したり減少させることに成功しています。

同じくマウスレベルの実験で富山大学井ノ口教授のグループは異なる記憶領域を光遺伝学の手法で同時に刺激して全く関係のない記憶同士を結びつけることに成功しています。

また2015年9月に東京大学と日本医療研究開発機構、科学技術振興機構が共同で以下のような発表をしています。

神経細胞上の樹状突起スパインが学習・記憶に伴い増大することに着目し、新生・増大スパインを特異的に標識し、青色光でそのスパインを収縮させる事が可能な蛋白質プローブ(記憶プローブ)をマウスで開発し、学習・記憶が貯蔵されている場所を可視化・操作する新技術を世界に先駆けて確立しました。

運動野を記憶プローブで標識後に青色光を照射すると、運動学習で獲得された記憶が特異的に消去され、記憶は脳内の少数の神経細胞に密に書き込まれていることが明らかになりました。

出典:東京大学、日本医療研究開発機構、科学技術振興機構プレスリリース「貯蔵された記憶を可視化・消去する新技術を開発」 記憶のメカニズム解明に前進

生きたままの脳内で学習・記憶の基盤を担うスパインを直接観察し、光遺伝学的操作で多数のスパインを広範囲にわたり操作する新技術を開発したとのことです。

今回の国際電気通信基礎技術研究所などの研究はニューロフィードバック技術を使って人の恐怖記憶変容に成功した研究です。光遺伝学、ニューロフィードバックなど最新の技術が記憶を書き換える可能性を広げています。

これら新技術がPTSDの治療や認知症のメカニズム解明などにつながることが期待されます。