流動性知能は脳トレで向上するか?

nounow編集部

脳トレゲームをやる(イメージ)
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特定の認知機能を高めることが実証されている脳トレはいくつか存在します。では脳トレはいわゆる頭の良さと近似する「流動性知能」を向上させることができるのでしょうか?

流動性知能と結晶性知能

心理学者キャッテルによると、人の知能は流動性知能(新しいことを学ぶ力、情報処理力、記憶力、暗算力、集中力など)と結晶性知能(経験や受けた教育をベースとする能力のことで専門的な知識や知恵、判断力など)にわけられます。

流動性知能のピークは25歳、結晶性知能は65歳前後で低下するといわれます。結晶性知能はかなり高齢になるまで伸ばしていくことが可能とされている一方で、流動性知能を向上させることは難しいという考え方が主流でした。

ワーキングメモリーと流動性知能

ワーキングメモリー(作業記憶)とは、課題の遂行中に一時的に情報を保持しておくシステムのことをいい、単に一時的に覚えている受動的な短期記憶と区別されます。

このワーキングメモリーを鍛えることで流動性知能が向上するという研究結果がいくつか発表されています。

脳を鍛える(イメージ)
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2002年認知神経科学者クリングバーグは、ワーキングメモリーがトレーニングによって改善された研究結果を発表しました。

「ADHDをもつ子供におけるワーキングメモリーのトレーニング」
ADHDがある子供たちと障害が無い大人を分けて調査した、被験者の数や少ない調査でした。無作為にグループを分ける方法がとられました。結果は、ワーキングメモリーを使うタスクにおいてトレーニング以前に比べて改善が見られました。これは他の神経心理学のテストでも同様でした。この研究の重要性は、ワーキングメモリーの能力は、トレーニングによって高まるということを最初に示したことです。ただし、被験者の数が少ないこと、行動面での調査を欠いていること、長期にわたってのフォローアップがなかったという制約はあります。 出典:http://www.cogmed-japan.com

多くの認知機能の重要な基盤とされるワーキングメモリーがトレーニングによって改善されるという事実の影響は大きく、脳の神経可塑性が明らかになったといわれています。

また後の論文ではワーキングメモリーにとどまらず流動性知能のスコアも改善したという結果を明らかにし、変わることがないと思われていた流動性知能がトレーニングによって改善しうることを示して大きなインパクトを与えました。

さらに2008年には、スイスの研究者ヤーキとブッシュクールが、トレーニングによってワーキングメモリー、そして流動性知能が改善したことを発表しています。

コグメド社のワーキングメモリートレーニング

クリングバーグは数名の同僚とともにカロリンスカ大学と共同でコグメド社を2001年に創業し、主にADHDの子供向けにワーキングメモリートレーニングを提供しはじめました。

以後ワーキングメモリートレーニングに関する様々な研究が発表されています。

「コンピュータを使ったワーキングメモリートレーニング」カロリンスカ大学
Conference – Annual Meeting of the Cognitive Neuroscience Society

この研究はあわせて55人の20代と60代の成人を無作為に選んでワーキングメモリートレーニングを試させ、トレーニングの効果を調べたものです。その結果、若年層も熟年層も共に、ワーキングメモリーがトレーニング前と比べ著しく伸びました;そして、その伸び方は若年層においていくらか大きくなっていました。特に顕著な点は、積極的にトレーニングに参加した人達については、日常の認知的な機能についても改善が見られたことです。トレーニングが終了した3ヵ月後に取られたデータは、改善したワーキングメモリーは持続していることを示していました。この事実の重要性は、コグメドのトレーニングは特に障害の無い成人においてもワーキングメモリーや日常の認知的な機能を高めることが出来ると、初めて検証したことです。
出典:http://www.cogmed-japan.com

「ワーキングメモリトレーニングによる流動性知能の改善」ミシガン大学
Journal – Proceedings of the National Academy of Sciences

この研究は特に障害の無い若年の成人において、ワーキングメモリートレーニングは流動性知性に及ぼす効果を調べたものです。ここで使われたトレーニングプログラムは、コグメドのものではありません。結果が示しているのは、トレーニングによって流動性知能指数が著しく伸び、伸び方はトレーニングの量が多いほど大きいものでした。この研究の重要なところは、流動性知能指数は、様々な複雑な思考を要するタスクの基礎となるもので、長い間個人の定量的な能力であると思われていました。しかし、結果的には、このような基礎的な能力でさえ集中的なワーキングメモリーのトレーニングで改善が可能であると示すことで、この従来からの見方に意義を唱えています。
出典:http://www.cogmed-japan.com

2009
Title – Changes in Cortical Dopamine D1 Receptor Binding Associated with Cognitive Training
「認知能力のトレーニングと大脳皮質におけるドーパミン受容体の変化の関係」(カロリンスカ大学)
Journal – Science

この研究は、ワーキングメモリートレーニング後の受容体細胞レベルでの脳の変化を調べたものです。その結果、ワーキングメモリーの能力を改善するトレーニングは大脳皮質でのドーパミン受容体の密度の変化に関係していることがわかりました。以前の研究で見られたワーキングメモリートレーニング後の脳の変化について確認できた点と、認知能力のトレーニングは脳科学での基本的な考え方を変えたということを最初に示した点でこの研究は重要であるといえます。
出典:http://www.cogmed-japan.com

現在コグメド社は世界最大の教育企業ピアソンの傘下となっており、6大陸31カ国で10万人以上のワーキングメモリーを改善しています(日本でも2008年からコグメドジャパン社が事業展開しています)。

いわゆる「脳トレ」を「コンピュータプログラムによる特定の認知機能のトレーニング」と定義すると、例えばコグメド社の脳トレは主にADHDのワーキングメモリーを改善するトレーニングとしてエビデンスも多く一般的に認知されてきているといえるでしょう。

一般層の流動性知能を改善するという点に関してはまだ論争も多く、コグメド社はことさらにそれを主張せず慎重なスタンスをとっているようです。

ワーキングメモリーと流動性知能(いわゆる頭の良さ)は密接に関係しているといいます。ワーキングメモリーをトレーニングして知能を向上させる研究はまだはじまって数年。さらなる研究の進化に期待したいですね。