デュアルNバック課題で、ワーキングメモリーは向上するのか?

工樂真澄

メモリの向上(イメージ)
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冷蔵庫を開けた途端に「あれ、何を出すつもりだったっけ?」、なんて経験はありませんか?
一生覚えておく必要はないけれど、その場その場で見たこと、感じたことを留めておくのが「ワーキングメモリー」です。意識して覚えておこうと思わなければ、たいていの場合は、そのまま記憶の彼方へと飛んで行ってしまうような一過性の記憶のことです。残念ながら年齢とともにワーキングメモリーも衰えます。
今回はそんな衰えを感じ始める中年層の方々にスポットを当てて、脳のトレーニングがワーキングメモリーに与える影響をご紹介します。

脳トレでワーキングメモリーは鍛えられるのか

ワーキングメモリーを鍛えようと考え出されたのが以前nounowでも取り上げた「デュアルNバック」課題です。(脳トレ「Nバック課題」と知能向上
脳トレでおなじみのNバック課題を、さらに難しくしたものです。この課題を使って何度も実験が繰り返されていますが、認知機能に対する効果は首尾一貫したものではありません。「ワーキングメモリーが向上した」、またそれだけでなく「他の認知機能が向上した」という結果もあれば、「全く効果がなかった」というものもあります。

カナダ、カルガリー大学のラウラ・サバジュ博士らは、30代から60代の健康な成人57人に協力してもらい、デュアルNバックが認知機能に及ぼす影響を調べました。成果は2016年4月に学術雑誌PLOS oneに掲載されました。

「デュアルNバック」課題では、耳と目で別々の情報を捉える必要があります。例えば「3バックテスト」では、画面に表れた図形が、3つ前に表れた図形と同じであれば、正解のボタンを押します。画面に図形が表れるのと同時に、イヤホンからはアルファベットが一つ聞こえます。もし聞こえてきたアルファベットが、3つ前に聞こえてきたアルファベットと同じであれば、やはり正解のボタンを押します。ただし図形が正解したときとアルファベットが正解したときに押すのは、それぞれ別のボタンです。

比較対照のグループの人たちには、コンピューター上で単純な課題を行ってもらいます。画面には次々と図形が表れ、その図形が一つ前に出た図形と同じであれば、正解のボタンを押す、というものです。

どちらのグループも約30分間のトレーニングを毎日、5週間に渡って行ってもらいました。そしてトレーニング期間前後には、認知能力を測るテストを行ってもらいました。テストでは「ワーキングメモリー」だけでなく、「処理速度」や「流動性知能」の測定も行いました。

知能はいくつかの種類に分けることができると言われます。「流動性知能」とは生まれながらにして持っているような知能で、学習や経験によらないと言われ、だいたい30代でピークに達した後、老年期になると急速に衰えていくとされています。

デュアルNバックは集中力を必要とする難しい課題ですが、トレーニングを受けた人たちは日を行うごとに上達していきました。5バックや6バックなど、たいへん複雑な課題をこなすようになった人もいました。では、このトレーニングによって、ワーキングメモリーや流動性知能は向上したのでしょうか?

中年層はデュアルNバックでは、ワーキングメモリーが向上しない?

統計解析の結果、デュアルNバックによるトレーニングを受けたグループと、比較対照グループとでは、テストの成績にほとんど差が見られませんでした。これは意外な結果でした。若い人に比べて中年層ではデュアルNバックの成績が悪いと言われています。そのため、もしトレーニングを積めばそれだけ上達の可能性もあり、他の認知機能も向上するのではないかと、予想されていたからです。

ただ対象数が少ない実験でありこの研究だけで中年層にNバックは効果なしと断じることもできないでしょう。

脳トレ「Nバック課題」と知能向上でもふれたとおり、Nバック課題の効果についての論争は続いており、未だ決着はついていません。

40代、50代というと若い年代と違って、体力の衰えや物忘れを意識する頃です。少しでも老いに歯止めをかけたいと、脳トレに最も期待を寄せている年代でもあるでしょう。中年層をターゲットとしたより有効な脳トレメソッドの開発が待ち望まれます。

Dual N-Back Working Memory Training in Healthy Adults: A Randomized Comparison to Processing Speed Training.
Lawlor-Savage L, and Goghari VM. PLoS One. 2016 Apr 4;11(4):e0151817.