脳トレゲーム会社による、認知機能向上に関する大規模調査

工樂真澄

大規模調査(イメージ)
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脳トレゲーム最大手の「Lumosity」を提供するLumos lab社が昨年発表した、脳トレ効果に関する大規模調査の論文を紹介します。

ゲーム提供会社による大規模な脳トレの調査

アメリカのLumos lab社のハルディ博士は、脳トレゲーム「Lumosity」による認知機能向上の効果についてウェイン州立大学と共同調査を行い、その成果は2015年に学術雑誌PLOSoneに掲載されました。参加した被験者の数が4715人という、大規模な調査です。

参加者はLumosityの無償版にアカウント登録した人の中からスカウトされました。18才から80才までの幅広い年齢層で、平均年齢は約39才でした。参加者はランダムに2つのグループに分けられ、片方のグループにはLumosityによるトレーニングが課題として与えられました。

Lumosityの中から選ばれた5つのゲームが1つのセッションで、1セッションは約15分かかります。トレーニングのバランスを考えて、その都度異なるゲームが選ばれており、全ての人が同じ内容のトレーニングを行います。

参加者のもう半分は比較対照グループとして、コンピューター上でジグソーパズル課題を行ってもらいました。こちらも1セッションが15分程度かかります。どちらのグループも週に5日間、10週間にわたって課題を行ってもらいました。

トレーニング期間前後に行ったのは、7つの認知機能を調べるテストで、その中にはワーキングメモリーを測るテストや推論テスト、計算問題などが含まれています。

結果は明らかなものでした。認知機能トレーニングを行ったグループは比較対照グループよりも、ほとんどのテストで著しく成績が向上しました。唯一推論テストだけは、ジグソーパズルのグループの方が良い成績でしたが、直接トレーニングを行わなかったような認知機能も向上していたことから、脳トレによる「転移」が認められた、としています。

過去の大規模調査では、その効果に疑問も

今回のように大規模に行われた調査としては、2010年にイギリスの国営放送BBCを通してケンブリッジ大学のオーウェン博士らが行った、1万人を超える人々を対象にしたものがあります。この論文でもコンピューターゲームによる脳トレ前後の認知機能が比較された結果、オンラインの脳トレによる認知機能向上の効果は認められない、と結論付けられました。

なぜこのような違いが生じたのでしょうか?

考えられるのはトレーニング方法です。2010年の調査では1回10分のセッションを、週に3回、6週間にわたって行いました。今回行われた調査よりは、かなりトレーニング量が少ないことがわかります。

今回の論文では期間による認知機能向上の効果も調べられており、トレーニング期間は長ければ長いほど、比較対象のグループとの間に差が出ることがわかりました。2010年の調査との結果の違いは、トレーニングの頻度や長さが異なるためではないか、と論文では結論づけています。

脳トレゲーム会社によるさらなるエビデンスの積み重ねに期待

今回ご紹介した論文はLumos lab社の調査ということで、Lumosityに好意的な結果であることは否めないでしょう。

しかし大規模なランダム化比較試験による実験であり一定の評価はされるべきと考えます。脳トレに関しては多くの論文が存在しますが、サイエンスライターのダン・ハーリー著「知能はもっと上げられる」によると

この本を書いている時点で ピアレビューのある科学誌に掲載された論文の中でランダム化比較試験を行った上で様々な認知能力トレーニングの効果が認められたとする論文は75本見つかっている。
そのような効果が認められなかったとする論文は4本だった 
出典:「知能はもっと上げられる」(著ダン・ハーリー 発行インターシフト)

とのこと。

脳トレ会社は脳トレゲームを提供するだけでなく、より効果を高めるための年齢に応じたトレーニング時間や使用期間などに関するエビデンスを積み重ねていってほしいものです。

Enhancing Cognitive Abilities with Comprehensive Training: A Large, Online, Randomized, Active-Controlled Trial.
Hardy JL et al.
PLoS One. 2015 Sep 2;10(9):

Putting brain training to the test.
Owen AM et al.
Nature. 2010 Jun 10;465(7299):775-8.