ニューロフィードバックで認知力は向上するのか?

工樂真澄

ニューロフィードバックトレーニング(イメージ)
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脳を自分で操るための訓練があることをご存じでしょうか? いま、認知機能の向上にこの方法が取り入れられようとしています。

脳波をコントロールするためのトレーニングとは

この訓練は「ニューロフィードバック」トレーニングといいます。1960年代頃から開発が進められ、主に自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)、うつ病などの精神疾患の患者さんの治療に用いられてきました。近年はアスリートや音楽家など、精神統一を必要とするような職業の人々にも取り入れられています。

ニューロフィードバックトレーニングでは「脳波」をモニターしながら、たとえばコンピューターゲームのような作業を行います。作業中に好ましい結果が得られたら、そのときの脳波の状態を被験者に知らせることで、今度は自らその状態を生み出せるように訓練します。

脳波を記録することで脳の活動がわかることが発見されたのは、1920年代のことです。健康な人では0.5ヘルツから30ヘルツの脳波が見られ、その周波数によって主にα波(8~13Hz)、β波(13~30Hz)、δ波(0.5~4Hz)そしてθ波(4~7Hz)にわけられています。たとえば計算問題を考えているとき、眠っているとき、音楽に聴き入っているときなど、異なる活動時にはそれぞれ異なる脳波が出ています。

また「てんかん」や脳の疾患があると、脳波に特徴的な異常が見られます。このような患者さんに対して、正常な脳波に近づけるための方法としてニューロフィードバックが用いられており、一定の成果を上げています。

ニューロフィードバックで認知機能は改善するのか

2016年にポルトガルのミンホ大学のレイス博士らは、高齢者のワーキングメモリーへのニューロフィードバックトレーニングの効果を発表しました。

実験では平均年齢約65歳の人々を対象に、8日間にわたって30分のニューロフィードバックトレーニングを行いました。トレーニングの前後には認知テストを行い、その結果を比較しました。比較対照群として他のグループの人々には、N-バックなどの脳トレや、偽のニューロフィードバックトレーニングを行ってもらいました。

今回訓練のターゲットにしたのは、ワーキングメモリーに関わるとされているα波とθ波です。実験の結果、ニューロフィードバックトレーニングを受けたグループは、トレーニング後にα波とθ波の両方の脳波が増えており、テストの成績も上がりました。このような変化は、比較対照となる他のグループでは見られませんでした。またニューロフィードバックのグループでは、脳波が増えるほど、テストの成績がよくなる傾向が見られました。

この実験から、ニューロフィードバックトレーニングによって、高齢者の認知機能が向上する可能性があることが明らかになりました。

ニューロフィードバックの認知症治療への応用が期待される

トレーニングというと最初に思い浮かぶのはスポーツです。たとえば野球ならストライクゾーンに球が入るように、意識してフォームの調整を行います。このように「意識しながら」トレーニングを行えば技術の習得が速いことは、誰しも経験があるでしょう。

今回ご紹介したニューロフィードバックもスポーツと同様に、脳の状態を「意識して」コントロールすることが目的です。脳の訓練と聞くと何だか難しいように聞こえますが、こう考えると必ずしも不可能ではないような気がしてきます。

ニューロフィードバックによる認知機能改善の試みは、まだ始まったばかりです。今回ご紹介した論文では、健康な高齢者の認知機能の向上に効果があることが示されました。今後はさらに、認知症予防や治療などへの応用が期待されます。

An Alpha and Theta Intensive and Short Neurofeedback Protocol for Healthy Aging Working-Memory Training.
Reis J et al. Front Aging Neurosci. 2016 Jul 7;8:157