音読と計算が認知機能の向上に効果アリ

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

「読み、書き、そろばん」といえば昔から学習の基本であり、その効果はコンピューターに頼ることが多くなった現代でも、衰えることはないようです。今回は、音読と単純な計算問題を取り入れたトレーニングが、高齢者の認知機能に与える影響について調べた研究を、ご紹介します。

音読と計算

東北大学の川島隆太教授らのグループは、音読と計算による脳のトレーニングについて、2016年に論文を発表しました。川島教授といえば、脳トレブームを巻き起こした立役者です。脳トレはブームにとどまらず認知機能の向上に効果があることを、教授らは数々の研究で示しています。

実験は64人の健康な高齢者(平均年齢約72歳)に協力してもらい、ランダム化比較試験が行われました。被験者は学習療法を行うグループと、待機するグループの2つにランダムに分けられました。学習療法のグループには、半年間、毎日のように単純な計算問題と音読を行ってもらいました。計算問題は小学校低学年レベルの四則演算です。音読教材は、たとえば「善はいそげ」「急がばまわれ」など、よく知られたフレーズや俳句、またはおとぎ話などです。どちらも15分もかからないくらいの課題です。教材は被験者それぞれのレベルに応じて用意され、実験期間中はずっと同じレベルの教材を行ってもらいました。普段は家で取り組みますが、週に一度は研究室に出向いてもらいました。比較対照群となる待機グループは、これらの学習課題を行っていません。さまざまな認知機能の測定テストを、実験期間開始前と期間終了後に行ってもらい、結果を比較しました。

学習療法で注意力や処理速度が向上

実験の結果、学習療法を受けた人たちは、受けなかった人たちに比べて、注意力や課題の処理速度が有意に向上したことがわかりました。「注意力テスト」は、多くの数字の中から目的の数字を探し出すというものです。また「処理速度テスト」は、5つの記号の中から目的のものをなるべく速く見つけ出すというものです。また「抑制機能」といって、不必要な情報に注意を向けない機能も改善していました。

しかし、学習療法の効果が見られない認知機能もありました。たとえば「エピソード記憶」を測るテストでは、短いお話を記憶する力は向上していましたが、顔と名前を覚える能力は変化しませんでした。さらに、数列を暗唱する「短期記憶テスト」や、暗記した数列を逆から言う「ワーキングメモリー」のテストの結果にも変化がありませんでした。

以上の結果から、音読と単純な計算を繰り返し行うことで、高齢者であっても認知機能が向上することが示唆されました。ただし、改善が見込める認知機能と、見込めない機能があることもわかりました。

脳トレは日常の生活の中でも

脳トレについて「オーバーラップ仮説」という考え方があります。ある認知機能を鍛えるために行う限られたトレーニングであっても、使うプロセスがオーバーラップしている場合には、直接トレーニングしていない認知機能も向上する、というものです。

今回の研究では、単純な文の音読と簡単な計算によって、計算力や言語能力だけでなく、注意力や課題の処理能力が鍛えられたと考えられます。本屋に行けば脳トレ用の計算ドリルや音読教材は豊富にありますが、わざわざ買い求めなくても、本や新聞を音読したり、毎日の買い物で合計金額をざっと計算してみたりするだけでも効果があることでしょう。認知機能の維持や向上のために大切なことは、脳を鍛えようとする毎日の心がけではないでしょうか。

ご紹介した論文
Reading aloud and solving simple arithmetic calculation intervention (Learning therapy) improves inhibition, verbal episodic memory, focus attention, and processing speed in healthy elderly people: Evidence from a randomized controlled trial.
Nouchi R, Taki Y, Takeuchi H, Nozawa T, Sekiguchi A, Kawashima R
Frontiers in Human Neuroscience, 10:217, 2016

参考文献
『認知心理学』有斐閣