スーパーマリオ64で脳の灰白質が増える

工樂真澄

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クリスマスシーズン、サンタさんにビデオゲームをお願いするお子さんも多かったことでしょう。「ウチの子はゲームばっかりして困る」と、ビデオゲームは時に悩みのタネにもなりますが、今回は皆さんもよくご存じのゲームを使ったトレーニングによって、高齢者の脳に良い変化が現れることを示した論文をご紹介します。

3Dビデオゲームで認知機能が向上

2017年、カナダのモントリオール大学のWest博士らのグループは、ビデオゲームを使ったトレーニングが、高齢者の脳に与える影響を調べて発表しました。今回使われたのは、任天堂の3Dアクションゲーム「スーパーマリオ64」です。1996年に発売された2次元のビデオゲームを3次元に進化させたもので、「Wiiリモコン」で操作することができます。 実験に参加したのは55歳から75歳までの健康な33人で、被験者はランダムに3つのグループに分けられ、そのうちの1つのグループが3Dビデオゲームを使ったトレーニングを行いました。

アクティブコントロール群として、2つ目のグループはコンピューターを使った電子ピアノのトレーニングを行いました。3つ目のグループは対照群で、特にこれといった活動を行いませんでした。最初のうちはインストラクターの指示のもとでトレーニング内容を習得し、慣れてきたら1回に30分のトレーニングを少なくとも週に5回、各自の家で行ってもらいした。トレーニング期間は6カ月間です。トレーニング期間に入る前と、6カ月のトレーニング終了後に、それぞれ認知機能のテストと、MRIの検査を受けてもらいました。MRIでは、「海馬」と「背側前頭連合野」、そして「小脳」に重点をおいて調べられました。

解析の結果、認知機能テストの成績が向上したのは、ビデオゲームを行ったグループでした。これに対し電子ピアノのグループと何も行わなかったグループでは、有意な変化がありませんでした。

3Dビデオゲームで灰白質の容積に変化

MRIの結果を比較すると、ビデオゲームを行ったグループは対照群と比べて、左の海馬と左の小脳の連結が強くなっていることがわかりました。これに対し、電子ピアノのグループでは、右の海馬と左の背側前頭連合野の結びつきが強くなっていることがわかりました。

さらに、トレーニング前後での各グループの「灰白質」の変化が調べられました。「神経細胞」は星状をした「細胞体」から、長い枝のような「軸索」が伸びているのが特徴です。脳は軸索が多く存在する「白質」と、細胞体が存在する「灰白質」に区別することができます。解析の結果、ビデオゲームグループでは、両側の海馬と左の小脳で、灰白質の容積が増えていることがわかりました。また、電子ピアノのグループでは右の背側前頭連合野と小脳の灰白質が増していることがわかりました。これに対し対照群では、両側の海馬と小脳、さらに右の背側前頭連合野の灰白質の容積が減っていることがわかりました。

以上の結果から、3Dビデオゲームを使ったトレーニングによって、健康な高齢者の脳の構造に変化が現われ、認知機能の向上に繋がる可能性が示されました。電子ピアノのトレーニングによっても変化は得られましたが、海馬への影響は見られませんでした。また、何も行わなかった場合には、海馬や小脳などの灰白質が減ることが示唆されました。

情報を空間的にとらえる訓練が効果的?

「海馬」は記憶をつかさどると言われる部分です。また「小脳」は、体のバランスや動きなどの調節に関わっています。今回の実験では、3Dビデオゲームを行ったグループで海馬と小脳の連結が強くなる傾向が見られました。これは3Dビデオゲームでは、3次元の画面上に現れる物(建物や木、川など)を把握しながら、キャラクターを動かす必要があることと関係していると考えられます。今回の研究は少数で行われたものであり断定することはできませんが、今後、楽しみながら認知機能を向上させるトレーニングとして3Dビデオゲームが発展することが期待されます。

ご紹介した論文
Playing Super Mario 64 increases hippocampal grey matter in older adults.
West GL et al., PLoS One. 2017 Dec 6;12(12):e0187779.